宮崎地方裁判所 昭和45年(行ウ)3号 判決 1973年10月19日
都城市八幡町四街区一八号
(送達場所)都城市中原町一八街区一三号
原告
福徳商事 株式会社
右代表者代表取締役
馬場栄二
都城市東町九街区二七号
被告
都城税務署長
栗林文男
右指定代理人
麻田正勝
同
芹野義信
同
石橋国志
同
村上久夫
同
須藤重幸
同
松下邦男
主文
一、原告の請求を棄却する。
二、訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、原告の求めた裁判
「被告が原告の昭和三七年四月一日から昭和三八年三月三一日までの事業年度分の法人税につき昭和四三年五月二八日付でした再更正処分を取消す。」との判決。
第二、請求原因
一、原告は金融業を営む法人であるが、昭和三七年四月一日から昭和三八年三月三一日までの事業年度(以下本件事業年度という)の法人税について、昭和三八年五月二七日被告に対し、青色申告書により一一万〇、二一二円の欠損とする確定申告をしたところ、被告は昭和四〇年一二月二四日原告の青色申告の承認を取消したうえ、同日付で課税所得金額を一三二万六、六七九円に更正する旨の処分をなした。
原告は右更正処分に対し、所定の前審手続をとつたうえ、昭和四二年七月三日右処分の取消請求訴訟を提起した。
右訴訟の係属中である昭和四三年五月二八日に被告は本件事業年度の原告の課税所得金額を一六一万九、三二〇円、法人税を五三万四、二〇〇円、重加算税を一五万九、九〇〇円に増額する旨の再更正処分(以下本件再更正処分という)おなした。
原告は右処分を不服として、昭和四三年六月二九日被告に対し、本件再更正処分につき異議の申立をしたが、同年九月二四日被告は右申立を棄却した。
そこで原告は同年一〇月二四日熊本国税局長に対し、審査請求をしたところ、昭和四四年一〇月三〇日同局長は右請求を棄却する旨の裁決をなし、同裁決書謄本は同年一一月八日原告に送達された。
二、被告は本件再更正処分をなすにつき、資産増減法による所得推計に基づき、原告の確定申告には一七三万五、四二五円の雑収入(収入金)の計上もれがあつたとして、これを加算項目に計上している(なお熊本国税局長の審査裁決によれば一八六万四、八一二円の雑収入もれがあるとしている。)。
三、しかしながら、原告の確定申告は真実にそつたものであつて、これを無視して資産増減法を適用したことは違法である。しかも、かりに資産増減法を適用するにしても、本件事業年度において原告には前記掲記の雑収入は存しなかつたし、被告のした雑収入算定には以下の誤りがある。
(一)、被告は右雑収入算定につき、原告代表者個人・原告代表者の家族・原告の株主および役員などの個人資産を何らの根拠なく、軽々しく原告の簿外資産と認定する過ちをおかしている。
(二)、金融業者たる原告が銀行より借入れをすることは困難であるので、原告代表者が個人的に銀行借入れをなし、それを原告に貸付け、銀行に対する弁済は原告代表者が日常小金融などの必要上保持していた個人の手持現金をもつてなしてきたため、原告より原告代表者個人に対しては弁済がなされていない状態のままの借入金が存在していたところ、被告はこれらの借入、内入弁済をすべて原告が行つたものであるとして、原告代表者個人への弁済のなされていない借入金を架空借入金と判断しているが、実体は右のとおり、原告代表者個人の手持現金で処理してきたものであるから、原告の借入金は減少せず、原告の帳簿に計上してある借入金は実在するものなのである。しかるに、これを無視するのは業界の実態を知らざること甚だしいものがある。
(三)、被告は原告の借入金算定の根拠の一部として旭相互銀行都城支店の貸付元帳により、昭和三七年三月末現在の同銀行に対する原告の借入金残高は三六〇万四、〇〇〇円と認定している。
しかし右銀行の貸付元帳は返済期日の点で事実と相違しており、左表掲記の三口の借入金はいずれも左表掲記の日時に返済しているのである。
<省略>
したがつて昭和三七年三月末現在の右銀行に対する借入金残高は一五〇万五、〇〇〇円である。
そうすると被告は右期日における借入金を二〇九万九、〇〇〇円過大に計上していることになるから、右金額より本件再更正額一六一万九、三二〇円を差引くと、本件事業年度において原告は四七万九、六八〇円の欠損となるはずである。これを以てしても被告の算定がいかに信頼するに足らないものであるかが明かである。
以上のとおりであるから被告のした本件再更正処分は違法であつて、取消されるべきである。
第三、被告の答弁および主張
一、請求原因に対する答弁
請求原因一・二項の事実は認める。
同三項は争う。
二、被告の主張
(一)、以下掲記のとおり、本件事業年度における原告の計上もれ雑収入(収入金)が一八六万四、八一二円あるから(審査裁決額による)、右金額を下まわる一七三万五、四五二円を計上もれ雑収入として申告額に加算して認定した本件再更正処分は適法である。
1、被告は、原告の昭和三九年四月一日から昭和四〇年三月三一日までの事業年度分の所得金額が相当の収入金があるにもかかわらず、一一万八、二四二円の欠損であり、かつ銀行から多額の借入金があるのに定期性の預金が皆無であることなどから、原告の真実の所得を把握すべく、昭和四〇年一二月頃原告の法人税に関する調査を実施した。
右調査の過程において、原告の会計帳簿に記録されていない貸付金があり、これらの資金ならびにその収益等が原告代表者名義・他人名義あるいは架空名義で銀行に預けられている事実が判明したが、その取引経過は相当複雑であり、原告の帳簿記録との関連性については到底究明すべき由もなかつた。
そこで被告は、原告ならびに原告代表者個人の資産・負債の一切を調査し、当該資産・負債の各事業年度における純増加額を求め、この増加額から代表者個人等の生活剰余金から成る部分を控除して残額を原告の所得と計算し、加算して本件再更正処分を行なつたものである。
(したがつて右方法によつて算出された所得金額には原告以外の者の所得は含まれていず、被告の計算によれば、原告代表者らの個人資産を原告の簿外資産と認定しているとの原告の主張が理由のないことは明らかである。)。
2、右の資産増減法による計算はつぎのとおりである。
別表2ないし6掲記の原告代表者個人名義・代表者の家族名義・架空名義等の各種預金・相互掛金・貸付金などを基礎として、原告の簿外資産および原告代表者らの個人資産の当該年度中における減少額四四九万七、六〇一円(昭和三八年三月三一日の期末残高五二三万七、八四五円から昭和三七年四月一日の期首残高九七三万五、四四六円を控除したもの。別表1簿外資産<3>計増減の行参照)を求め、これから原告の簿外負債および原告代表者らの個人負債の当該年度中における減少額六七四万五、〇〇〇円(昭和三七年四月一日の期首においては、原告の決算書に計上されていない負債があつたが、昭和三八年三月三一日の期末においては、原告の決算書に計上されている負債のうち五九三万九、〇〇〇円は返済ずみであり、結局架空過大の借入金があつたことになるので、期末残高五九三万九、〇〇〇円と期首残高八〇万六、〇〇〇円を加算したもの。別表1簿外負債<6>増減の行参照)を控除して得た二二四万七、三九九円から、さらにこのうち生活剰余金からなるもの三八万二、五八七円を控除した残額一八六万四、八一二円が計上もれ雑収入となる。
しかして原告の課税所得金額は右雑収入もれ一八六万四、八一二円に申告調整額一、二〇〇円を加え、これから事業税認定損七、一二〇円と公表欠損金額一一万〇、二一二円を控除した一七四万八、六八〇円となる。
(二)、1、原告は銀行からの借入れは、原告代表者個人がなし、それを原告に貸付けたものであつて、銀行に対する弁済も代表者個人の手持現金をもつてなしたと主張する。
しかし銀行からの借入金はすべて現実に原告において運用されているのであるから、仮に原告代表者個人名義で借入れがなされていたとしても、その真実の借主は原告である。
また原告代表者は原告会社以外に個人で事業を行なつているものではなく、他に個人の所得もないのであるから、代表者個人としての手持現金が多額にあつたとは到底考えられない。
2、請求原因三項(三)掲記の借入金三口の返済年月日につき旭相互銀行都城支店の貸付元帳ではいずれも昭和三七年四月六日と記帳されていること、被告が右記帳を根拠として昭和三七年三月末現在の同銀行に対する原告の借入金残高を算定したことは原告の主張するとおりである。
そこで右各借入金につき、原告主張の返済月日の正否および返済月日に関する原・被告の主張の相違が原告の純財産の増減に与える影響について述べることつぎのとおりである。
(1)、昭和三七年一月二六日借入れの一〇万について、
右借入金については、昭和三七年四月六日に手形番号No三の手形による借入金一〇万円にきりかえられ、同年四月二四日まで継続しているのであるから、同年三月二六日に返済があつたとする原告の主張は理由がない。仮に同年三月二六日に返済があつたとしても、その場合には手形日付・利息計算等からみて手形番号No.三の手形による借入金が同日に発生したとみるべきで、昭和三七年三月末現在の借入金残高に異動はない。
(2)、昭和三七年一月三一日・同年三月三一日借入れの各一〇〇万円について
これらの借入金については、原告が昭和三七年三月三一日に吉田クニ名義の普通預金から一三〇万六、八一二円、馬場栄二名義の別段預金から六九万二、一八八円合計一九九万九、〇〇〇円を引き出し、これらの金員をもつて旭相互銀行に対する返済にあてたものである。しかるに旭相互銀行においては事務処理上右預金の払戻・貸付金の返済がいずれも同年四月六日になされたように記帳したのである。
したがつて原告主張のように昭和三七年三月末現在の借入金残高を減少させるとすれば、その減少分だけ同日現在の預金残高を減少させなければならない結果となる。
以上のとおり返済期日に関する前記相違は原告の純財産の増減に対し、何ら影響を及ぼすものではない。
理由
一、請求原因一・二項の事実は当事者間に争いがない。
二、本件再更正処分の適法性について
(一)、資産増減法による所得推計の 否
1. 証人美並澄人の証言および同証言により成立の認められる乙第一号証(調査メモ)・同第三号証(同)・同第四号証(同)ならびに前項争いのない事実によれば、つぎの事実が認められる。
都城税務署係員は、原告の法人税申告にかかる銀行借入金額に比して定期預金・月掛預金・相互掛金などの定期性預金が極めて少ないことから、原告の真実の所得を把握すべく、昭和四〇年一二月頃、昭和三五年一〇月から昭和四〇年三月までの各事業年度についての原告の法人税に関する調査を実施した。
右調査の過程において、原告の銀行預金が原告代表者個人名義・代表者の家族名義・架空名義などによつてなされていること、銀行借入れに対し即日返済を行うなど極めて特異な方法によつて銀行との取引がなされていること、支払利息が過大に計上され(戻利息の計上もれ)、また帳簿に記帳されていない貸付金が存在するなど原告の帳簿記帳は極めて不正確であることが判明した。
原告代表者に説明を求めても原告の所得の実体を把握することはできなかつた。
また原告会社は同族会社であつて個人的色彩が強く、原告会社と代表者個人の資産区分は極めて不明確であつた。
そこで被告は資産増減法によつて原告の所得を推計し、更正処分・本件再更正処分等を行なうこととした。
2. ところで右事実関係のもとにおいては、被告が本件事業年度における原告の所得を推計するために資産増減法によつたことは合理的であつて適法であることはいうまでもない。
(二)、計上もれ雑収入一八六万四、八一二円の存否
1. 前顕乙第一・三・四号証、成立に争いのない乙第九号証の一・二(法人税確定申告書とその添付書類)、同第一〇号証の一・二(同)・同第一二号証(報告書)、証人大塚勲の証言により成立の認められる乙第二号証(調査メモ)・同第一一号証の一ないし五(資産負債増減表とその明細表)および証人美並・同大塚の各証言ならびに弁論の全趣旨によれば、本件事業年度の期首である昭和三七年四月一日、期末である昭和三八年三月三一日における原告の簿外資産および原告代表者とその家族の資産を構成するものとして、別表2ないし6掲記の金額の、原告代表者名義・代表者の家族名義・他人名義・架空名義等による定期預金・相互掛金・普通預金・別段預金・貸付金、簡易保険が存在したこと(期首における合計九七三万五、四四六円、期末における合計五二三万七、八四五)、原告の法人税額の確定申告にかかる公表借入金額は、昭和三七年三月末現在において四三〇万円、昭和三八年三月末現在において六九五万円であつたこと、しかし原告の昭和三七年三月末現在における真実の借入金額は五一〇万六、〇〇〇円、昭和三八年三月末現在のそれは一〇一万一、〇〇〇円であつたこと(明細については別表7参照)の各事実が認られる。
2. そうすると本件事業年度においては、原告の簿外資産および原告代表者らの個人資産は四四九万七、六〇一円減少したことになる。
一方昭和三七年四月一日においては原告の公表決算書には記載されていない八〇万六、〇〇〇円(五一〇万六、〇〇〇円から四三〇万円を差引いた分)の借入金があつたことになり、また昭和三八年三月末現在において、公表借入金六九五万円から真実の借入金一〇一万一、〇〇〇円を控除した五九三万九、〇〇〇円が架空過大に原告の借入金として計上されていたことになるから本件事業年度においては、原告の簿外負債および原告代表者らの個人負債は六七四万五、〇〇〇円(右八〇万六、〇〇〇円と五九三万九、〇〇〇円を加算したもの)減少したことになる。
ところで成立に争いのない乙第五号証(調査メモ)によれば本件事業年度における原告代表者およびその家族の年間収入金額から生活費を差引いた剰余金は三八万二、五八七円であつたことが認められるから(別表8参照)、資産増減法による所得計算を適用すると、前記簿外資産等減少額から簿外負債等減少額を控除して得た二二四万七、三九九円からさらに右生活剰余金三八万二、五八七円を差引いた残額一八六万四、八一二円が本件事業年度において、原告の計上もれ雑収入(収入金)として存在したものというべきである。
従つてこれに申告調整額一、二〇〇円を加え、これから事業税認定損七、一二〇円と公表欠損金一一万〇、二一二円を控除すれば本件事業年度による所得額は一七四万八、六八〇円となる。
3.(1)、叙上判示したところから明らかなとおり、右雑収入には原告以外の者の所得は含まれていないのであるから、請求原因三項(一)掲記の原告の主張は理由がない。
(2)、証人美並の証言および弁論の全趣旨によれば、金融業者たる原告が自身の名義により銀行借入れをすることは困難であつたために原告代表者名義で借入れをしたにすぎないこと、借入金はすべて現実に原告によつて運用されていること、借入金に対する返済は原告の事業収益をもつてなされていることが認められるから、請求原因三項(二)掲記の原告の主張も採用できない。
(3)、請求原因三項(三)掲記の借入金三口の返済月日について旭相互銀行都城支店の貸付元帳にはいずれも昭和三七年四月六日と記帳されていること、被告が右記帳を根拠として昭和三七年三月末現在の同銀行に対する原告の借入金残高を算定したことは当事者間に争いがない。
そこで請求原因三項(三)の主張の当否について検討する。
イ、昭和三七年一月二六日借入れの一〇万円について
弁論の全趣旨により成立の認められる乙第八号証(貸付金記入帳写)、証人大塚の証言により成立の認められる乙第六号証(調査メモ)によれば、右借入金は昭和三七年四月六日に手形番号No.三による借入金一〇万円にきりかえられ、同年四月二四日まで継続していることが認められる。
したがつて右借入金は同年三月二六日に返済されたとする原告の主張は理由がない。
ロ、昭和三七年一月三一日・同年三月三一日借入れの各一〇〇万円について
成立に争いのない甲第五号証の一(証明書)、弁論の全趣旨により成立の認められる乙第七号証(普通預金元帳写)前顕乙第六号証ならびに証人大塚の証言によれば、原告は昭和三七年三月三一日吉田クニ名義の旭相互銀行普通預金(実質は原告のもの)から一三〇万六、八一二円、馬場栄二名義の同銀行別段預金(実質は原告のもの)から六九万二、一八八円合計一九九万九、〇〇〇円の払戻手続をなし、右金員をもつて右各借入金に対する返済手続をとつたこと、しかし旭相互銀行においては事務処理の都合により右払戻・返済受領日時をいずれも昭和三七年四月六日としたことが認められる。
右事実よりすれば、昭和三七年三月三一日現在において右借入金二口が存在するものとし、一方右借入金額相当額を右各預金残高から減少せずしてした被告の計算には何らの誤りはなかつたものというべきであり、この点に関する原告の主張も理由がない。
(三)、よつて被告が前記のように、計上もれ雑収入額を加えた計算を下まわる一六一万九、三二〇円を、本件事業年度における原告の所得金額と認定した本件再更正処分は適法であるというべきである。
三、以上のとおりであつて、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却する。
訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用した。
(裁判長裁判官 舟本信光 裁判官 笹本忠男 裁判官 浜崎浩一)
(総括表)
<省略>
別表1 資産負債増減法
<省略>
別表2. 定期預金明細表
<省略>
<省略>
別表3 相互掛金明細表
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相互掛金回収分(貸付金を月掛相互掛金により回収したもの)
<省略>
別表4 普通預金明細書
<省略>
別段預金明細表
<省略>
別表5. 貸付金明細書
<省略>
(注)宮崎印刷(株)△100,000円は原告公表貸付金1,000,000円を被告は900,000円としたもの
旭相互銀行相互掛金回収分
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貸付金合計 37.4.1現在 1 464 000円
38.3.31現在 788 000円
別表6. 簡易保険明細表
<省略>
別表7. 架空借入金明細表
<省略>
<省略>
別表8. 生活剰余金明細表
自 昭和 37.4.1
至 昭和 38.3.31
給与合計 591,000円
受取利息 25,587円
収入合計 616,587円
生活費合計(家族7名) △234,000円
差引 生活剰余金 382,587円